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- 紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
- 画像データ提供: 群馬県立がんセンター 放射線診断部 部長 堀越 浩幸 先生
マルチモダリティを用いた前立腺癌の骨転移画像診断
監修
堀越 浩幸 先生
群馬県立がんセンター 放射線診断部 部長
近年、MRIの性能向上により全身MRIの撮影が比較的容易に施行可能になり、更に2020年には前立腺癌の骨転移診断を目的とした全身MRI撮影加算が認められるようになった。しかしながら、骨シンチグラフィは依然として骨代謝を描出できる最も重要な検査の1つであり、骨転移診断において必要な検査である3),4),5)。
今回は、当院におけるマルチモダリティを用いた前立腺癌骨転移画像診断について、症例画像を交えて紹介する。
●前立腺癌骨転移診断 overview
前立腺癌患者の骨転移診断はconventional imagingとして骨シンチグラフィおよびCTによる画像検査が標準検査として確立しており、PCWG3(Prostate Cancer Clinical Trials Working Group)3)においては骨転移診断に骨シンチグラフィを推奨している。
●全身MRIの適応
全身MRIの適応は、前立腺癌診療ガイドライン2016および画像診断ガイドライン2016に準ずるものとされている。
当院では、骨転移評価は骨シンチグラフィを標準の検査として行い、引き続き、全身MRIを行っている。
●当院での全身MRIの撮影法
前立腺癌の骨転移を評価する構造化レポートシステムであるMET-RADS-Pが2017年に欧州泌尿器科学会より発表された8)ものの、専門性の高い全身MRIは撮影法および読影法の標準化が依然として課題である。
当院では、前立腺癌の骨転移検出のための全身MRI撮像の指針に準拠し、高b値拡散強調画像との融合画像作成のため、3D脂肪抑制造影T1強調画像を追加している。
経過:前立腺癌にて放射線治療施行。その後、再燃にてホルモン療法中。
ホルモン療法中の骨シンチグラフィのBSIは16.65%から8.51%と低下しており、視覚的にも改善傾向を認めるが、CTでは全身骨にびまん性の造骨性病変を認め、治療効果判定は困難であった。CT単独の評価は注意が必要である。
全身MRIでも全身骨に拡散強調画像で異常信号を呈する多発骨病変を認めるが、STIRでは骨全体にびまん性の高信号病変を認め、各シーケンスで所見が異なっていた。骨シンチグラフィとの比較によって、より正確な病変の認識が可能であった。
骨代謝に特異的な骨シンチグラフィの異常集積部位と全身拡散強調画像での異常信号部位は、捉えているものが異なるため一致しないこともある。経過観察には定量指標が必要になることが多く、骨シンチグラフィと全身拡散強調画像の両画像を用い、かつ、BSI値も参考に比較評価することが望ましい症例であった。
経過:前立腺癌にて重粒子線治療施行。その後、再燃にてホルモン療法中。
全身拡散強調画像でも全身骨に認められた多発異常信号病変は椎体では改善しているが、上腕骨、大腿骨では増悪を認めた()。PSAとBSIの推移が一致しない症例において、全身拡散強調画像の追加によって、より正確に病勢を評価する事ができた症例であった。
前立腺癌の骨転移画像診断では、各モダリティ毎に所見が異なることも多い。各モダリティの特性を十分に理解し、単一モダリティのみでなく、マルチモダリティを用いて限りなく確定診断に至る必要性に迫られている。当院では、骨シンチグラフィのCADを用いた骨転移診断のdecision treeを用いており(右図)、その実例として骨シンチグラフィを標準検査とし、CTおよび全身MRIを追加することで病勢の評価を行った2症例を紹介した。
前立腺癌の骨転移画像診断では、骨転移と正常の骨化との鑑別に苦慮することが多い。加えて、経過観察時の骨シンチグラフィと全身MRIの所見が異なり、治療効果判定に苦慮するケースを多く経験する。
今回、上記に該当する症例を提示したが、提示症例はいずれも、参考値として半定量指標であるBSIを算出する骨シンチグラフィは欠かせない検査であった。
近年注目されている全身MRIは、当院でも活用しているが、骨シンチグラフィが現在でも最も重要な検査の1つである事は明らかであり、省略すべきでない3),4),5)。マルチモダリティを用いて正確な骨転移診断に至る事こそが重要である。