テーマディスカッション_総合討論
テーマディスカッション
総合討論

 

  • 本記録集に掲載されている薬剤の使用にあたっては当該製品の添付文書をご参照ください。
  • 紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
  • 本コンテンツで使用している症例・画像提供元:岐阜ハートセンター 松尾 仁司 先生

テーマディスカッション 総合討論

 

座長

工藤 崇 先生
長崎大学

坂本 裕樹 先生
静岡県立総合病院

演者

中埜 信太郎 先生
埼玉医科大学国際医療センター

松尾 仁司 先生
岐阜ハートセンター

塩野 泰紹 先生
和歌山県立医科大学

橋本 暁佳 先生
札幌医科大学

コメンテーター

仁科 秀崇 先生
筑波メディカルセンター病院

川﨑 友裕 先生
新古賀病院

福島 賢慈 先生
福島県立医科大学

渋谷 清貴 先生
坂総合病院

 総合討論では、「2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療1)(以下「同ガイドライン」と表記)」に関する議論や、症例ディスカッションの内容および視聴者からの質問を踏まえた議論が行われた。

1) 日本循環器学会. 2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療. 2022年3月11日発行.
テーマディスカッション3 (塩野先生の症例)に対するディスカッション

坂本 「FFRCTを使用できる施設は限られているので、塩野先生がご提示された症例A(rule-outに至った自験例)のような場合、本邦ではCAGを施行することが多いのではないでしょうか?」という質問を視聴者の方からいただきました。確かにそうかもしれません。FFRCTは施設基準がかなり厳しいため、実際に当院においても、実施したくても実施できないという現状です。
 本症例では、検査前確率(pre-test probability: PTP)が中等度の症例であるため、心筋SPECTで陽性の場合はrule-inできると思います。しかし、心筋SPECTが陰性の場合は、検査後確率が30%程度となるため、rule-in、rule-outのいずれも判断が難しくなります。本症例では、胸部症状がなく、冠動脈CTAにより閉塞性冠動脈病変(LAD近位部病変のみ)を認めたが、心筋SPECTは陰性であったため、カテーテル検査の必要はないと思いますがいかがでしょうか?

中埜 私も坂本先生と同意見です。rule-outを想定した冠動脈CTAでrule-outが十分にできなかったため、追加検査として心筋SPECTを実施したという流れは、非常に合理的で納得できます。

松尾 坂本先生のご意見にほぼ同意します。心筋SPECTが陰性で、検査後確率が30%程度であったとしても、治療戦略としてはOMT(至適薬物療法)を十分に行えばよいと思います。冠動脈に動脈硬化の可能性があることには留意が必要ですが、将来的に心イベントが起こる確率は低いという判断は十分にできると思います。

テーマディスカッション4 (橋本先生の症例)に対するディスカッション

福島 橋本先生がご提示くださった症例C(検査前確率高度)については、おそらく他の先生方も悩まれる症例であると思います。そこで、同ガイドラインに記載されている「LMCA / LMCA相当の病変を示唆する高リスク解剖学的(CCTA)および虚血(機能的イメージング)所見」にご注目いただきたいと思います。その中には、心筋SPECTでの一過性虚血性内腔拡大(TID)が明記されています。すなわち、負荷時一過性内腔拡大は重症所見であるということです。心筋灌流やEFが正常な場合のTIDは診断価値が低いと考えられますが、一方で、それらが異常を示す場合のTIDは、極めて重症であることを示唆している可能性があります。これを踏まえますと、症例Cに関しては、橋本先生が述べられたとおり血行再建を前提としたCAGを実施すべきだったと思います。

坂本 この症例では、既にLADの虚血が存在していた可能性が心筋SPECTの結果から疑われていましたが、血管造影を担当した医師はFFRを施行しませんでした。この場合のFFRの必要性について松尾先生はいかがでしょうか?

松尾 侵襲的FFRには、局所の責任病変を評価できる利点があり、手術を選択すべきかどうかの治療戦略に関わる重要な情報を得ることができます。症例Cに関しては、私は侵襲的FFRでの評価が必要であったと考えます。

坂本 視聴者の方から松尾先生へ「症例Cではdonor arteryの中等度狭窄虚血評価として侵襲的FFRを実施すべきではないでしょうか?」との質問をいただきました。donor arteryの影響により灌流域が広がるため、陽性に出やすいということを気にされているのではないかと思いますがいかがでしょうか?

松尾 CAGの結果からは軽度狭窄のように見えても、特にdonor arteryの場合では圧較差を生じる病変が認められることが多いと思います。侵襲的FFRが必須であるとは言い切れませんが、この症例に対しては侵襲的FFRを実施したほうがよい状況であったと思います。

参考情報
侵襲的冠動脈造影(CAG)のポイント(カッコ内は同ガイドラインにおける推奨クラスを示している。)

  • CAGは(非侵襲的検査を経て)のちの血行再建を行う可能性を視野に入れて検討する
    ※血行再建に不向きな患者には行わない(III)
  • OMT調整にも関わらず不応性・抵抗性であればCAG(I)
  • 非侵襲的検査等でハイリスク所見(LMCA/LMCA相当の病変)が強く疑われればCAG(I)
  • 非侵襲的画像検査で結論が出ない場合はCAG(IIa)
  • 心不全患者に冠動脈疾患が疑われる場合はCAG(IIa)

埼玉医科大学国際医療センター 中埜 信太郎 先生 ご提供
同ガイドラインを基にした自身の見解から作成

 

FFRCTや侵襲的FFRの結果の解釈について

坂本 これまでは、Hachamovitchらが報告した10%ルール(心筋SPECTでの虚血量が10%以上である場合には薬物治療よりも血行再建を行った方が心臓死は少なく、虚血量が10%以下である場合には血行再建よりも至適薬物治療を行った方が予後良好であること)2)のように、虚血の有無ではなく、虚血重症度が重要視されてきました。FFRでは、0.65をカットオフ値としてハードイベントが予測されますが、測定部位によって臨床的影響は異なると思います。これについて先生方のお考えはいかがでしょうか?

松尾 これまでに報告されているFFRのエビデンスは基本的にfar distal(遠位部)での値によるものです。現時点では、far distalのシングルポイントのFFR値で評価することが一般的であると思います。最近では、プラークの脆弱性などに関しては局所の病変前後の圧較差が関係しているという仮説も報告されています。しかし、PCIや冠動脈バイパス手術(CABG)などの血行再建を行うような場合には、シングルポイントでの測定ではなく、pullback curve(引抜き曲線)からびまん性病変か局所性病変かを評価することも臨床的な決定をする上で重要な情報であると考えます。局所の圧較差と心イベントとの関連性については、今後さらにエビデンスが構築されていくと思います。

塩野 FFRについては、私は狭窄の重症度だけでなく、灌流域と狭窄の重症度を加味した値であると解釈しております。したがって、FFR低値は、狭窄度が強く、灌流域が広い領域を含む状態であることを示唆しており、FFRが0.65程度まで低下するとハードイベントへの関連性を示すと考えています。

松尾 心筋SPECTでは、FFRが大きくステップアップして、あるところから急激に灌流圧が低下するような病変は評価しやすいと思います。一方、灌流圧が心尖部から少しずつ上昇を示すようなケースについては、心筋SPECTでは血流欠損として現れにくく、評価が難しいかもしれません。これら2つのパターンが、心筋SPECTで虚血所見を認める・認めないの一つの鍵となっている可能性があるのではと考えています。

坂本 FFRCTのデータがあれば、虚血の範囲、程度を定量化できるように思いますが、いかがでしょうか?

松尾 FFRCTではボロノイ法によって%Ischemic areaが導かれます。心筋SPECTでは解剖学的な領域の虚血を評価するわけではないため、FFRCTで示される%Ischemic areaとは少し乖離が生じる可能性があります。例えば、6番の冠動脈に狭窄が存在したとしても、必ずしも解剖学的な灌流領域全てで高度の虚血が発生しているとは断定できないと思います。

仁科 私もそう思います。心筋SPECTの%Ischemiaというのは、単純に言うと虚血の領域と重症度を掛けたものになります。したがって、10%虚血というのは、20%の領域に50%の灌流低下があるという意味であり、左室の10%の領域に異常があるということではありません。

工藤 視聴者の方から「donor arteryのFFRCTも侵襲的FFRと同じ認識でよろしいでしょうか」という質問を受けておりますが、松尾先生いかがでしょうか?

松尾 同じように認識することはできません。その理由はFFRCTではcollateral circulation(側副血行)が計算に含まれていないためです。したがって、侵襲的FFRでは、collateral circulationを介しての血流量の増加の影響を受けるため、基本的にはFFRCTに比べ低く測定されます。そのため、側副血行路が発達した症例をFFRCTで評価する場合は、collateral circulationの影響が加味されていないことに注意する必要があります。

2) Hachamovitch R, et al. Circulation. 2003; 107(23): 2900-2907.
参考情報
Heart Flow FFRCT calculation Process

FFRCTや侵襲的FFRの結果の解釈についてFFRCTや侵襲的FFRの結果の解釈について

岐阜ハートセンター 松尾 仁司 先生 ご提供

 

石灰化スコアの活用について

坂本 冠動脈CTAにおける石灰化スコアを先生方が臨床上どのように利用されているのかを教えてください。

福島 石灰化スコアの臨床活用はとても難しいと感じています。石灰化スコアに関する様々なエビデンスがありますが、局所の石灰化とびまん性の石灰化では、同じスコアでも全く性質が異なると思います。また、FFRCTを用いて局所の虚血を評価する際も、石灰化の程度が大きいと測定値への信頼性低下が懸念されるため、特にスペックの低いCT装置では評価が難しいかもしれません。そのような場合には、私は心筋SPECTによる追加検査を検討します。

松尾 我々の施設では、造影CTの場合は基本的に石灰化スコアも同時に測定しています。しかし、腎機能が低下している症例に対しては、単純CTで石灰化スコアのみを評価する場合もあります。その後、冠動脈における動脈硬化の重症度指標の一つとして、心筋SPECTによる追加検査の必要性を検討します。

中埜 冠動脈疾患のリスクはPTPに依存します。そのため、仮に石灰化スコアが0であったとしても、それだけではリスクの否定には結びつかないことに留意が必要です。

検査前確率(PTP)の活用について

工藤 私自身は、PTPを優れた医師のgut feeling(直感)を数値化したものであると解釈しておりますが、PTPに対する先生方のご意見をお聞かせください。

川﨑 当院では、PTPを除外目的で主に活用しています。例えば、50歳以下の女性で胸部症状を認めないような症例です。当院では胸痛を訴える症例が多いため、本日の先生方のお話を拝聴し、今後は除外目的以外にも、ケース・バイ・ケースでPTPの活用を検討すべきと思いました。

中埜 同ガイドラインが推奨するPTPモデルは、安定冠動脈疾患を対象としたものであり、増悪型の狭心症には当てはめることができません。そのため、ACS(急性冠症候群)等に関しても、このPTPモデルで予測することは困難であり、異なる軸での検討が必要となります。専門の先生方であれば、患者の状態をワンポイントで判断せず、「臨床経過で診る」ということを既に実践しておられると思います。また、患者紹介を受けるような医療機関では安定型症例の割合は少ないと思いますが、先生方の外勤先のような施設では、例えば年に1回か2回程度の胸痛を示すような安定型症例が多く存在すると思います。PTPは、そのような症例に対しご活用いただき、ストラテジーをご検討いただく流れが妥当であると考えます。

渋谷 PTPに関しては、特に外来診療において、患者を診るシチュエーションによって評価が変わるという実情があります。当院では中等度以上の症例が多いですが、PTPの問題点としては、高齢者など、自分の胸痛について正確に表現できない方に対し、低く見積もってしまう場合が想定されます。そうなると、冠動脈CTAが優先されるストラテジーとなり、不用意な造影剤投与や、石灰化の影響が強い中での冠動脈CTAなど、齟齬が生じやすくなります。患者が自分の症状を正確に表現できているかを十分に加味した上で、次に行う予定の検査が妥当であるかを考えることが重要と考えます。

他の疾患を併発している場合のリスク評価について

工藤 橋本先生の症例Cのように、別の疾患を大きく抱えていて心筋SPECTを施行するような症例に対しては、先生方はどのようにご対応されますか?

川﨑 当院は整形外科を併設しておりますので、整形外科の術前に行う検査で心臓の異常が指摘されるケースがよくあります。そのような症例に冠動脈CTAを施行すると、CTO(慢性完全閉塞)であったという経験もあります。LAD(左前下行枝)病変の場合は、不整脈との関連や、RCA(右冠動脈)やLCx(左回旋枝)の病変とは異なる意味合いがありますので非常に悩みますが、CTOで、かつcollateral flow(側副血行路)が十分に発達していれば手術を優先することが多いです。その理由は、血行再建術後には抗血小板薬を服用する必要があり、その影響で手術が延びてしまう心配があるためです。

工藤 同ガイドラインで推奨されているPTPは、心臓の症状は安定していて他に大きな疾患を抱えている場合にも当てはめてよいものなのでしょうか?

中埜 そのようなケースについては同ガイドラインが推奨するPTPの対象として想定しておりません。術前の場合は全く異なるアルゴリズムであるとお考えください。

工藤 ありがとうございました。それでは、テーマディスカッションのセッションを終わらせていただきます。演者の先生方、コメンテーターの先生方、本日はご参加ありがとうございました。