SPECT/PET 認知症 症例アトラス アミロイドPET検査前の脳血流SPECT検査の意義
 
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  • 紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
  • 3D-SSPおよび3D-SSP_Z-Graph、VIZCalcによる画像解析は、「核医学画像解析ソフトウェア medi+FALCON」※を使用することで実施可能です。(※認証番号:301ADBZX00045000)
  • 本コンテンツで使用している画像の提供元:稲川 翔也 先生

SPECT/PET 認知症 症例アトラス アミロイドPET検査前の脳血流SPECT検査の意義

稲川 翔也 先生
東京医科大学 高齢総合医学分野

清水 聰一郎 先生
東京医科大学 高齢総合医学分野 主任教授

抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬であるレカネマブが登場し、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)及び軽度の認知症の進行抑制が治療の対象となった。当科においてレカネマブの治療を検討した症例紹介を通じて、アミロイドPET検査前の脳血流SPECT検査の意義について解説する。
 
症例1 レカネマブ治療に至った症例
若年性アルツハイマー病 50歳台半ば 女性

●症例の背景

主訴
もの忘れ
現病歴
3年前から職場でもの忘れを指摘されるようになった。自覚症状は無いが、上司から仕事上のミスを指摘されることが増え、上司からの指示で近医を受診した。頭部MRIにて大脳皮質の萎縮が目立つとのことで、当科紹介受診となった。
既往歴
なし
内服薬
なし
神経心理検査
MMSE:23点(時間-2,場所-1,計算-2,遅延再生-2)、MoCA-J:15点、WMS-R:即時2遅延0、ADAS-Cog:13.7点、FAB:9点、VF:野菜8個,動物8個、TMT:63.75秒、CDR:0.5
髄液検査
陽性 Aβ42/40:0.028(0.068以上)、p-Tau181:131pg/mL(29.0以下)
新潟大学で測定 ( )内はcut off値
 
頭部MRI
頭部MRI1

大脳皮質の萎縮に比べて海馬の萎縮は目立たない。

 
脳血流IMP-SPECT画像
脳血流IMP-SPECT

一次感覚運動野と後頭葉の血流は保たれているが、前頭葉、頭頂葉、側頭葉に広範な血流低下が確認できる。

 
3D-SSP解析結果
脳血流IMP-SPECT

頭頂葉から側頭葉にかけて広範な血流低下があり、前頭連合野の血流低下も確認できる。

 
3D-SSP/Z-Graph解析結果
脳血流IMP-SPECT

頭頂葉、楔前部、後部帯状回においてZ-summationが高値となり、血流低下が認められる。

 
アミロイドPET画像(18F-Flutemetamol)

●横断面

脳血流IMP-SPECT

●矢状断面

脳血流IMP-SPECT

●冠状断面

脳血流IMP-SPECT

●VIZCalc解析結果

脳血流IMP-SPECT

両側大脳皮質に広範に集積を認め、Aβ病理を示唆する所見が確認された。

 
まとめ

もの忘れが主訴であり、MRIでは大脳皮質に比べて海馬の萎縮は目立たず、脳血流SPECT画像では典型的なアルツハイマー病(AD)の血流低下パターンが確認された。アミロイドPET画像と髄液検査からAβ病理の存在が示唆され、レカネマブ治療に至った。
脳血流SPECTがアミロイドPET検査前のADの確診度向上に寄与した。

症例2 レカネマブ治療に至らなかった症例
アルツハイマー病疑 60歳台後半 女性

●症例の背景

主訴
もの忘れ
現病歴
1年前からご飯のおかわりを夫に尋ね、その直後にまた尋ねるといった近時記憶障害が出現した。同居する娘からも、もの忘れの指摘があり、精査目的で当科受診となった。
既往歴
本態性高血圧、めまい症、便秘症
内服薬
降圧薬など
神経心理検査
MMSE25点(時間-1,場所-1,遅延再生-3)、MoCA-J24点、WMS-R:即時8遅延1、ADAS-Cog:11点、FAB:17点、VF:野菜14個,動物15個、TMT:44.59秒、GDS:3点、CDR:0.5
髄液検査
陽性 Aβ42/40:0.037(0.068以上)、p-Tau181:104.1pg/mL(29.0以下)
新潟大学で測定 ( )内はcut off値
 
頭部MRI
頭部MRI1

海馬の軽度萎縮を認める。

 
脳血流IMP-SPECT画像
脳血流IMP-SPECT

右側側頭葉に広範な血流低下が確認できる。

 
3D-SSP解析結果
脳血流IMP-SPECT

右側優位で側頭葉に広範な血流低下が確認でき、帯状回から後部帯状回にかけて明らかな血流低下が確認できる。ADとは矛盾しないが、典型的なADパターンとは若干異なる。

3D-SSP/Z-Graph解析結果
脳血流IMP-SPECT

後部帯状回の血流低下は認めるが、楔前部の血流低下は認めず、頭頂葉の血流低下も限局的であることが、3D-SSP/Z-Graphでは明確に示されている。

 
アミロイドPET画像(18F-Flutemetamol)

●横断面

脳血流IMP-SPECT

●矢状断面

脳血流IMP-SPECT

●冠状断面

脳血流IMP-SPECT

●VIZCalc解析結果

脳血流IMP-SPECT

アミロイドPET画像ではAβ病理を示唆する所見は確認できない。

 
まとめ

本症例ではMRIで軽度な海馬の萎縮を認めた。脳血流SPECT画像では後部帯状回の血流低下がありADは否定できないため、アミロイドPET検査と髄液検査を行った。アミロイドPET画像では灰白質における集積が認められず、Aβ病理を示唆する所見は確認できなかった(PET-)が、髄液検査では陽性(CSF+)となった。このようなCSF+/PET-と乖離が生じるケースの経過を追った報告1)では、2年後にCSF+/PET+となったケースが29.4%存在しており、さらにCSF+/PET-はAD発症早期の状態であることが報告されている。一方、CSF+/PET-はAD以外の神経疾患である可能性があるため、本症例もアルツハイマー病から診断の変更の恐れがある。本症例はもの忘れはあるが、断片的であり、ADの症状とは異なる印象も否定できず、患者にも同意を得て現状でのレカネマブの投与は行わず経過観察としている。改めてSPECT画像を確認すると楔前部、頭頂葉の血流低下がみられず、ADの典型例とはいえない。

当科におけるレカネマブ治療に至るまでの診療フロー

 
参考文献
1)Sala A, Nordberg A, Rodriguez-Vieitez E. Longitudinal pathways of cerebrospinal fluid and positron emission tomography biomarkers of amyloid-β positivity. Mol Psychiatry 2021; 26(10):5864-5874
2)Jansen WJ, Janssen O, Tijms BM, et al.. Prevalence estimates of amyloid abnormality across the Alzheimer disease clinical spectrum. JAMA Neurol. 2022; 79:228-243.
3)Reimand J, Collij L, Scheltens P, Bouwman F, Ossenkoppele R. Association of amyloid-β CSF/PET discordance and tau load 5 years later. Neurology 2020; 95(19):e2648-e2657.
 
IMP-SPECT撮像再構成処理条件
  • SPECT機種名
  • 投与量
  • コリメータ
  • 撮像開始時間
  • 収集時間
  • 収集モード
  • SymbiaEVOExcel
  • 222MBq
  • LMEGP
  • 15min
  • 20min
  • Continuous
  • 投影方向数
  • EnergyWindow
  • 回転半径
  • Matrixsize
  • 収集拡大率
  • Pixelsize
  • 45方向(180度):4度/view
  • 159keV±15%
  • 14.0cm
  • 128pixels×128pixels
  • 1.45
  • 3.30mm×3.30mm
  • スライス厚
  • 画像処理フィルター
    (パラメータ)
  • 再構成方法
  • 減弱補正(減弱係数等)
  • 散乱補正(パラメータ)
  • 3.30mm
  • Butterworth
    (0.35Nyquist,Order8)
  • Filtered Backprojecton
  • Chang's AC(0.08cm-1)
  • None
 
18F-flutemetamol 撮像再構成処理条件
  • PETカメラ機種名
  • 投与量
  • 撮像開始時間
  • 収集時間
  • 収集モード
  • FOV
  • Discovery MI
  • 185MBq
  • 90min
  • 20min
  • Static Replay
  • 30cm
  • Matrix size
  • 拡大率
  • Voxel Size
  • 画像処理フィルター
  • Z-Axis Filter(GE装置の場合)
  • 再構成方法
  • 128pixels×128pixels
  • 1
  • 2.34mm×2.34mm×2.79mm
  • Gaussian 4mm
  • Standard
  • 3D-Iterative+TOF(VPFX)
  • OSEMの場合 iter sub
  • β(Q.Clearの場合)
  • PSF
  • TOF
  • Iteration=4,subset=16
  • -
  • On
  • On