ハイリスク症例に対する密封小線源療法の可能性
Nelson N. Stone, MD(Professor of Urology & Radiation Oncology, The Mount Sinai School of Medicine, USA)
斉藤 史郎 先生(独立行政法人国立病院機構東京医療センター泌尿器科医長)
シード線源永久挿入による前立腺癌密封小線源療法は国内で開始されて10年目を迎え、現在全国110以上の施設で実施されています。本治療は侵襲が少なく、アメリカでの長期間の観察にてその有効性と安全性が確認されていますが、その適応に関しては意見の分かれるところであります。一般には低リスク症例に関しては的確なる手技にて治療を行えば、手術、外照射療法、小線源療法、いずれの方法による治療成績にも差がないことが示されています。その中で、小線源療法は手術よりも治療侵襲が少なく、他の放射線治療よりも効率的で安定した線量分布が得られることから、直腸や尿道での障害が生じにくく、また性機能の維持も高率に期待できる治療法として認識されています。
ヨウ素125を用いた小線源療法においては、処方線量を144Gyとして、前立腺周辺に3mm程度のマージンをとった領域に照射が及ぶことが推奨されていますが、低リスク症例においては腫瘍悪性度、病巣範囲の両面から考慮して、小線源療法単独での治療で十分な有効性が得られるものと思われます。臨床病期分類でのT factor、PSA値、Gleasonスコアが高まることはリスクの上昇であり、すなわち腫瘍悪性度および病巣の進展の可能性を高めています。そのため、リスクの高い症例においては小線源単独での治療では不十分だと考えられ、線量の増加と照射野の拡張を目的とした外照射の併用が行われています。また、病巣の縮小および放射線の効果の向上をねらったホルモン療法の併用も有効とされています。
米国Mount Sinai大学のDr. Stoneは数多くの経験から、リスクの高い症例に対してはBiologically Effective Dose (BED)を高くした放射線治療が最も治療効果が高いと考えておられ、高いBEDを得るためには小線源と外照射の併用が最も効率的であるとしています。ここでは「ハイリスク症例に対する密封小線源療法の可能性」を語ったDr. Stoneの講演“Best Approach for High Risk Prostate Cancer”の主旨を紹介いたしますが、これは大変興味深い内容であり、今後の国内における高リスク前立腺癌に対する治療選択の考え方に一石を投ずることになると思われます。
「局所進行の可能性のある高リスク前立腺癌に適正治療法はあるか」について考えてみましょう。例として次のような患者の治療法を考えて頂きたいと思います。患者は55歳男性、PSA値が20、cT2cの前立腺癌で、グリソンスコア8、生検コア60%に癌が認められ、前立腺体積は28cc 、性的にアクティブで、IPSS 6です。骨転移、CTスキャンは陰性で、被膜外浸潤と精嚢への浸潤について直腸内コイルMRIで陰性です(図1)。このような比較的若い患者の予後が最も大切です。健康な55歳の男性であれば、あと20~30年は生存することが期待されます。このような前立腺癌治療にはいくつかの選択肢がありますが、泌尿器科医は、ほとんどが根治的前立腺全摘除術を選ぶでしょう。また同じ質問に放射線腫瘍医は、IMRTと2年間のホルモン療法だと大半が答えるでしょう。ですが私は、小線源療法とIMRT、そして9ヶ月間のホルモン療法の併用こそが、このような患者の治療にはベストであると信じています。
根治的前立腺全摘除術に補助放射線療法を加えた結果はどうでしょうか。図6は2006年にJAMAに発表されたSWOG-8794のデータです。これで明らかになったのは、根治的前立腺全摘除術と補助放射線療法を受けた患者では、根治的前立腺全摘除術単独の患者より生存率が約30~35%改善されたということです。この結果より根治的前立腺全摘除術の局所再発率が30~35%であり、その残存腫瘍が放射線療法により治療されたということになります。
Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)のDr. Michael Zelefskyは、中間~高リスク前立腺癌の場合、放射線療法の線量を上げるほど(最高で81Gy)優れた結果が得られることを明らかにしています。しかし81Gyであっても、まだ12%の患者では前立腺癌が残存していました(図7)。つまり、この限局性疾患の全てを根絶するには、81Gyでは不十分だったのです。
ではここで、小線源療法及び外照射療法と短期ホルモン療法を組み合わせたデータを見てみましょう。 Mount Sinai病院のDr. Richard Stockと私が、この併用療法に興味を持ち始めたのは1993年のことでした。そして10年間の経験を踏まえて、2004年に小線源療法と外照射の併用により総放射線量を安全に上昇させられるという結果を得ました。そしてこの研究の中で、中間~高リスク患者の86%が非再発であったことを報告しました(図9)。小線源療法と外照射の併用に関心を寄せていた研究グループは我々だけではありません。図10はVirginia大学からのデータですが、根治的前立腺全摘除術と小線源療法および外照射療法の併用を比較したところ、併用療法の方が約20%優れた転帰となっています。
ここで生物学的効果線量(Biologically Effective Dose:BED)を使って照射線量を比較する方法についてお話ししたいと思います。BEDを用いる意義は、これにより小線源療法と他の照射方法の比較ができることです。また、ヨウ素であろうが、パラジウムであろうが、またイリジウム192であろうが同じ基準で比較できます。ここで明らかになったのは、BEDで計算された線量が高いほど治療後のPSA制御率が高くなるということです(図11)。Cox回帰分析で調べると、PSA再発を予測する重要な因子はPSA値、グリソンスコア、そしてBEDであることが分かります(図12)。American Brachytherapy Society(ABS)が推奨している100Gyのヨウ素挿入と45Gyの外照射の併用療法がBED200Gyに匹敵します。BEDを180~200Gyあたりまで上げると、患者の98%で局所制御されます。
では最初の症例に戻りましょう。55歳でPSA値が20以上、グリソンスコアが8の前立腺癌患者です。これはInternational Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics(Red Journal)に発表される予定のデータですが、グリソンスコアが7~10の前立腺癌に関する重要な研究です。このデータは6ヶ所の施設、Mount Sinai、MSKCC、Mayo Clinic、Cleveland Clinic、UCSF、New York Prostate Instituteのデータです。約6000例の患者のうち845例はグリソンスコア7で、233例は8~10でした。グリソンスコアが8~10の患者をサブグループ解析すると、BEDが220以下では61%、220超では86%が生化学的非再発という結果でした(図13)。
非常に高い線量として220Gy超の群を設定しました。グリソンスコアが8~10で、かつPSAが20を超える患者では、BED220Gy超であった患者の86%が非再発でした(図14)。
このような高線量が照射された患者で短期ホルモン療法が有効かを考えます。非常に高い線量において、短期ホルモン療法は有効であり生化学的非再発率は94%とホルモン療法を行わなかった75%よりも高くなりました(図15)。
転移についてはどうでしょう。図16はグリソンスコアが8~10の患者に対する高線量放射線療法の効果を示したもので、照射線量が高いほど非転移となる確率が高くなっています。Cox回帰分析を行うと、外照射とBEDが重要でした(図17)。
グリソンスコアが8~10の患者での5年全生存率を調べたところ、照射線量が高いほど生存率が高くなりました(図18)。
Cox解析ではやはり補助的な外照射療法とBEDが重要で、グリソンスコアとPSAは因子ではありませんでした(図19)。
このことが示すように、高グレードの前立腺癌患者では局所疾患を根絶させれば転移は起きず、前立腺癌で死ぬこともなくなるわけです。このように220Gy超という高線量のBEDを得るためには、45Gyの外照射療法、さらにヨウ素での小線源療法にてD90を130Gyにする必要があり、また、短期のホルモン療法を併用すればさらに効果が高まります。このような130Gyのヨウ素と45Gyの外照射(α/β=2)の併用療法で得られる線量に匹敵するBEDを外照射療法だけで得ようとすると、117Gyが必要になり、とても実行できるものではありません。
220Gy以上のBEDを得るためにこのような併用療法を行うとなると、これがはたして安全なのか、直腸に損傷を与えないのか、という問題を考えなければなりません。図20はRTOGで報告している直腸での有害事象の発生率ですが、88.7%には消化管疾患はなく、10.6%にグレード1~2の有害事象を認めました。
4例(0.7%)にグレード3~4の損傷があり、これは潰瘍と瘻孔でしたが、これら4例のうち3例が220Gy未満で、1例は220Gy以上でした。つまり、直腸の有害事象の発生とBEDには関連はありませんでした。